徹底比較! iPhone 用の中国語辞書

英語学習に限定すれば、iPhone があれば電子辞書は「なくてもいいかな」というレベルには既に達していると思う。では、中国語学習ではどうか…というと、これが恐ろしく心許ない。あれこれ辞書アプリケーションを買ってはみたものの、現時点では電子辞書を置き換えるには至らない。勢い、中国語学習者は iPhone に加えて、電子辞書も持ち歩く必要がある。

何が辛いかと言えば、現時点では「日中」「中日」「中中」のいずれのタイプの辞書も存在しないという点。いや、一応「デイリー日中英・中日英辞典」があるにはあるのだが、日中英で 13,000 語、中日英に至っては 5,000 語という、人をバカにしているのかという語彙数の少なさなので、とても使えたものじゃない(と思う)。必然的に中国語学習者が利用するのは「英中」「中英」にならざるを得ない。

そこで、これまでに私が購入した辞書のうち、多少なりとも有用なものについて比較をしてみることにした。以下、簡単なスペック一覧。

名称 価格(円) サイズ(MB) 見出し語 例文数 中英 英中 簡体字 繁体字 拼音 ブックマーク
KTdict C-E (Chinese-English dictionary) 無料 4.5 CC-EDICT - ×
DianHua Dictionary 無料 52.1 CC-EDICT -
iCED Free Chinese English Dictionary 無料 45.0 CC-EDICT - ×
English Chinese English Dictionary 460 20.3 57,162(英中) / 76,570(中英) ? ×
Modern English-Chinese Chinese-English Talking Dictionary 800 636 35,000(英中) / 50,000(中英) ? × ×
Cambridge Learner's English-Chinese Dictionary 1,300 5.7 80,000(英中) 30,000 × - - -
Cambridge Advanced English-Chinese Dictionary 2,100 36.9 190,000(英中) 80,000 × - - -
iCED Pro Chinese English Dictionary 2,900 144 200,000(中英) ? ×

結論から申し上げれば、

  • 万人にお薦め出来るのは「KTdict C-E」。但し、辞書というよりは「読みをド忘れた漢字の読みを調べる」的な用途で使うことになる。
  • 現時点で使い物になる中英は「Modern English-Chinese Chinese-English Talking Dictionary」のみ。
  • 中英を諦めるのなら(中国語学習者としては考え難いが)、Cambridge シリーズで気に入ったものを選べばよさそう。

以下、個々の製品について簡単に紹介。

CC-CEDICT ベースの辞書

CC-CEDICT は、パブリックドメインの中英辞書を作成していた CEDICT プロジェクトの後継プロジェクト。CC-CEDICT 自体は Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 License で配布されている。2009/07/12 現在での収録語数は 86,437 だが、当然ながら各アプリケーションがどのタイミングでの CC-CEDICT の成果を利用しているかによって、収録語数は異なってくる。

以下に挙げるのは、いずれも辞書データとして CC-CEDICT を利用しているもの。だから内容はほぼ同じ。CC-CEDICT ベースの場合、繁体字 / 簡体字の両方での検索に加えて、拼音による検索もサポートされる。これは、CC-CEDICT にそれらのデータが用意されているから。

KTdict C-E

おそらく、個人的には一番使っている辞書アプリケーション。起動と検索が高速なので気に入っている。上にも書いたように、一番の用途は「読みを忘れた漢字の読みを調べる」というもの。「『研究』って何て発音するんだったっけ…」ってときにも安心。

もっとも、辞書としての使い勝手も悪くない。検索結果一覧はこの上なく見やすいし、インクリメンタルサーチも実用になる。特に検索結果一覧で、各語の意味がぱっと分かるのがありがたい。CC-CEDICT ベースでは最高の出来じゃないかと思う。

DianHua Dictionary

私が知る限り、多分一番最初に登場した無料の中国語辞書。バージョン 1.0 の頃はあまりの検索速度の遅さでとても使い物にならなかったが、バージョン 2.0 からは劇的に高速化した。

とは言っても、個人的には評価は高くない。一番不満なのは、検索結果一覧での一覧性が低いこと。KTdict なら 8 件は同時に見られるのに、DianHua ではフォントサイズを最小にしても 6 件しか見られない。しかもフォントサイズを最小にした状態では、実用に耐えられない画面出力になってしまう。また、検索結果一覧での意味の表示方法もよくない。KTdict の見やすい表示に慣れてしまうと、DianHua の出力は見るだけで萎える。

追加モジュールである「DianHua Dictionary Audio Module」(600 円)をインストールすると、見出し語に対する発音を聴くことが出来る…が、収録されているのは 16,000 語程度なので、全ての単語の発音を聴けるわけではない。発音そのものは問題ないのだが、如何せんこれでは少な過ぎる。

また、Audio Module との連携も微妙。DianHua で検索して発音を聴こうとすると、まず DianHua が勝手に終了した後、別アプリケーションである Audio Module が起動するというスタイルになっているのだが、これがワンテンポ遅れる感じでイマイチ。Audio Module に全てを一本化してくれれば良かったのに。

一つ評価出来るのは、数字の読み方を示すという機能があること。「10070」で検索すると「一万零七十」といった検索結果と、その発音を聴くことが出来る(これには Audio Module は不要)。数字の読み方はときどき分からなくなってしまうことがあるので、これは有り難い。あと、KTdict にはないブックマーク機能は、必要な人には嬉しいかも。

DianHua のレビューはべた褒めが多いけど、所詮は無料だからって感じかな。

iCED Free Chinese English Dictionary

広告付きなので、それが鬱陶しい人には向かない。他の CC-CEDICT ベースの辞書とは違い、

  • 部首索引が用意されている
  • 検索された単語を分解して、それぞれをまた検索対象にするという機能がある。例えば、「普通話」で検索すると「普通話」の意味に加えて、「普通」「話」それぞれの意味も出てくる

といった点が差別化に繋がっている。広告が鬱陶しくなければ、KTdict C-E ではなくこちらでもいいかもしれない。

「Modern English-Chinese Chinese-English Talking Dictionary」は現時点で手に入る最高の中英辞書

本当に使える中英となると、現時点では Modern English-Chinese Chinese-English Talking Dictionary(以下「MECCETD」)しかない。語彙数が少な過ぎるのが難点だが、語の説明はしっかりしているし、文例も豊富。文例は当然ながら中国語 + 英語で出てくるので、その点も申し分ない

この辞書の売りは、その発音機能。お世辞にも多いとは言えないこの語彙数で 600MB を超えるダウンロードサイズ、しかもインストール時には 2GB 程度の空きが要求されるのだから、その発音には期待していた。しかし、いざ使ってみると「あれ?」っていう感じ。いや、音声に問題があるわけではない。音声が出る場所が妙なのだ。

通常、辞書の発音機能というと、見出し語を読み上げてくれるものを期待する。しかしこの辞書の場合、発音してくれるのは単語の意味部分だというのが妙なところ。例えば、「even」を検索すると「即使..., 連..., 甚至...」という意味が出てくる。で、読み上げの対象となるのはこの部分。妙でしょ? 「只是」を検索すると「only; just; merely」という意味が出てくるが、やはりこれが読み上げの対象となる。「even」や「只是」は読み上げの対象とはならないのだ。

この奇妙な読み上げ機能に目をつぶれば、学習用の辞書として十分に使えるのではないかと思う。発音そのものもそんなに悪いわけではない。そもそも、中国語の発音機能があるだけでも貴重。

残念なのは、検索機能が貧弱なこと。簡体字のみの検索で、繁体字や拼音では検索出来ない。大多数の学習者は手書き認識を併用すれば問題ないと思うのだが、私のように繁体字をメインで使う人間にはかなり使いづらい。

ちなみに、ブックマークには自分でメモを追加出来るのが面白い。これは後述する Cambridge シリーズも同じ。というより、MECCETD と Cambridge シリーズは兄弟みたいなモノ。

MECCETD には以下のような兄弟アプリケーションもあるけど、無理にケチるよりも素直に MECCETD を買ったほうがいいと思う。「音声がないとこれっぽちのサイズしかない」というのは、何かの参考になるかも。

こうやって派生モノを大量に出すのも Cambridge シリーズっぽいなぁ。

「iCED Pro Chinese English Dictionary」は語彙数と多彩な検索方法が魅力だが…

MECCETD が出てくるまで、本当に使える中英辞書は iCED Pro しかないかと思っていた。語彙数 200,000 は魅力だし、部首でも拼音でも繁体字でも簡体字でも検索可能で、しかも説明はある程度しっかりしていて、最低限度とは言え文例もついていたから。

しかし、MECCETD を使いだすと、iCED Pro には語彙数くらいしか強みがないのもまた事実。また、2,900 円が妥当な価格かと言われると困る(正直なところ、ちょっと高い)。私は気に入っているけど、万人に勧められるかというとちょっと辛い。この値段で発音機能もないしね。

iCED Pro には正式な英中機能がないのも困りモノ。正確に言えば、英単語が見出し語として独立していないのだ。iCED Pro の英中というのは、ただ単に指定された語を中英の語の説明の中で探し、マッチしたモノを引っ張ってくるだけの機能。例えば、「car」で検索すると、最初に出てくるのは「寶馬」(BMW)になってしまう。「寶馬」という語に対する意味が「BMW car」となっているから引っかかってしまったのだが、これでは正直使えない。

iCED Pro の使い勝手やインタフェースは Free 版とほぼ同じなので、まず Free を試してから購入に踏み切るべきだろう。

「English Chinese English Dictionary」はお買い得か?

「English Chinese English Dictionary」は価格が安い割に高機能。英単語についてはこの価格で発音機能付きなのは素晴らしい(但し、音質は値段相応)。簡単な英文法のガイド(全編英語だが)も付録として用意されているし、英単語なら WordNet をオフライン検索することも可能。

但し、肝心の中国語辞書機能が弱い。発音機能はないし、拼音表記の代わりに「アルファベット + 数字」記法になっている。語の意味も貧弱だし、文例もない。単語の意味をぱっと知る程度であれば使えるかもしれないが、学習用の辞書としては使い物にならないと言っていい。

英語の辞書としてはお買い得に思えるかもしれないが、もし本当に英語の辞書が必要なら、同じ会社から出ている「Speaking English Dictionary & Thesaurus」のほうがいい。中国語辞書機能以外は English Chinese English Dictionary 以上の機能があり、しかも価格も安い。

Cambridge シリーズは中英機能がないのが痛い

Cambridge から出ている英中辞書には、どれも中英機能がない。英中を必要とする局面はあまりないので、買ったとしても iPhone の肥やしになりそうなのが悲しい。また、英中機能で検索した中国語の単語には拼音が振られていないので、発音が分からない語は別途調べる必要がある。

語の説明は英中両方で記述されているので、その点は評価出来る。文例も豊富で、繁体字 / 簡体字を両方同時に表示出来るのも便利。ほんと、これに中英さえあれば…といつも思わされる。

英英としても使いたいとすれば、Cambridge シリーズは必要十分な機能を有していると思う。ただ、本当に英英が必要なら、もっといい辞書があるのでそちらを買うべき。例えば、同じ Cambridge シリーズの「Advanced Learner's Talking Dictionary」のほうがいいはず。

余談だが、Cambridge シリーズには似たような辞書が沢山あるため、買ってから「しまった」と思わされることが多くて困る(それが商売上の戦略か、と穿った見方をしたくなる)。おそらく私の場合は英英としても使え、英英語 / 米英語の両方の発音を聴くことが可能な「Cambridge Advanced English-Chinese Talking Dictionary」(2,900 円)を最初から買っていればよかったんだろうが…。

Longman Dict 100000 Words EC/CE」はどうだろうか?

まだ購入してないけど気になるのは「Longman Dict 100000 Words EC/CE」。おっと、これには

の 2 種類があるので、購入には注意が必要。1,200 円で、英単語については発音もあるらしい。