『標準 校正必携―電算植字対応版』

文章で可処分所得の幾らかを得ている身として、幾ばくかの義務感にかられて購入。

基本的には内閣告示(「外来語の表記」や「常用漢字表」)や JIS 漢字表といった、校正や編集の現場で必要とされる各種資料を集約した資料集という位置付けなので、当然ながら頭から通読するようなものじゃない。でも個々の資料をぱらぱらと見ていると楽しいし、参考になるところは多い。異体字や代用字についての一覧や、歴史的仮名遣い表といった独自の内容がコンパクトに纏められているのも便利。

「送り仮名の付け方」などは、もう一度キチンと確認しておきたい。校正記号や校正用語なども、うまく使えば編集者とのコミュニケーションがより円滑になりそう。普段の校正は全部 Acrobat でやっているから、校正記号の出番はまずないんだけど、「ゴチ」「トルママ」「オンビキ」といった指定は使えるかもね。

「同音の漢字による書きかえ」(昭和 31 年 国語審議会報告)とどう付き合っていくか

当用漢字*1に含まれない漢字を含んで構成されている漢語をどう処理するか…これに対して当時の国語審議会が出した答は、「同音の別の漢字に書き換える」というものだった。個人的な感情としてどうしても受け入れがたいもの(例: 稀硫酸 → 希硫酸)、自分の中でもすっかり受け入れられてしまったもの(例: 日蝕 → 日食)、「いやそんなの今日まで知りませんでしたから」みたいなもの(例: 七顛八倒 → 七転八倒)など様々だけど、実際に一覧で並べられると壮観。「へー、これもそうだったんだ」と、新しい発見も多数あった。

「『障害者』という語に「害」の字を使うのはアレだ、本来『障害』は『障碍』なのだから『碍』の字を使え」って意見がある。私自身も「衣裳」の代わりに「衣装」を使うのは気持ち悪いし、銃を数えるとき*2は「一挺、二挺…」にしたいし、船を「繋ぐ」以上は「係船」じゃなくて「繋船」を使いたい。でも、実際に全ての「同音の漢字による書きかえ」で元々の漢語を使えるかというと、それは流石に無理だろう。個人で書くどうでもいい文章ならともかく、仕事の文書や商業出版物で「理窟」や「聯想リスト」はちょっと厳しい。そりゃ単なるエゴだ。

「気に入ったものは使うけど、気に入らないものは使わない」ってのも統一感がないし、諦めて流されるしかないのかなぁ。

*1:常用漢字が内閣告示になったので、当用漢字は 1981 年に廃止されている。

*2:いつ数えるんだろう?