計画技法の第一人者、加藤昭吉氏の著作 2 冊

id:HappymanOkajima 氏の熱烈な推薦の辞に惹かれて購入 & 読了。

計画の科学―どこでも使えるPERT・CPM (ブルーバックス)

初刷が出たのが 1965 年…というとピンと来ないが、昭和 40 年と言えば「えっ!! そんな時代の書籍?」と思われるかもしれない。そんな時代の書籍に関わらず、未だにその輝きを失っていないのが本書の素晴らしいところ。裏を返せば、日本は(少なくとも日本のソフトウェア業界は)その当時から少しも進歩していないということなのだが。

計画の科学―どこでも使えるPERT・CPM (ブルーバックス)

計画の科学―どこでも使えるPERT・CPM (ブルーバックス)

本書は、当時の日本でもその名前が知られつつあった PERT についての入門書。「忙しいのは上手に計画を立てられていない、あるいはその計画を管理できていないからだ」という言に始まり、科学的な計画管理技法としての PERT の紹介からその背後にある考え方までを分かりやすく説明している。単なる技法の解説だけでなく、実際に現場に適用するまでの方法論についても触れられているのは、現場で PERT の導入に汗を流した著者だからこそなのだろう。

PERTPMBOK などにも登場する馴染み深い計画管理技法だが、ソフトウェアの現場には殆ど浸透していない気がする。また、PERT そのものについても詳しく知っている人は多くないのではないだろうか。もちろん、PMBOK の解説書などを読めば、PERT という単語と、その基本的な考え方は述べられているはずだ。しかし、そこに挙げられている PERT の説明は正直なところお寒い限りで、それだけ読んだってとても現場で実践出来るような内容ではない。大部分のソフトフェアエンジニアにとっての PERT の知識というのは

  • クリティカル・パス
  • フロート
  • 3 点見積

といったキーワードのみ(情報処理技術者試験の選択肢中に登場するキーワードレベル!!)であるし、堂々と「PERT なんてソフトウェア開発の現場じゃ適用出来ないよ」と嘯く人間までいる始末。

もしこれまで「PERT」というキーワードを聞いたことがあっても、実際に PERT についてちゃんと学んだことがなければ、是非本書を一度紐解いて頂きたいと思う。そこらのプロジェクト管理技法の書籍での説明とは根本的にレベルの異なる、PERT の生きた考え方を知ることが出来るはずだ。2008 年現在で第 73 刷(!!)という値が、本書の有用性を示している。

本書を読んだ結果として PERT についてどのような印象を抱くかは人それぞれだが、仮に「やっぱり PERT は…ね」という結論に達したとしても、本書は決して無駄にはならない。計画の立て方とフォローアップの方法についての記述は、現場のエンジニアであれば必ず役に立つ。

ブルーバックスだけあって説明は平易であり、難しい数式も一切登場しない。PERT のネットワークを読むのに多少の時間は必要かもしれないが、普通の人なら 1 日で十分に読みこなせるだろう。

「計画力」を強くする―あなたの計画はなぜ挫折するか (ブルーバックス)

こちらは 2007 年の加藤氏の著書。「優れた計画を立案し、その通りに実行したり実行させる能力」を「計画力」とし、計画力を以下に鍛えていくかを順序立てて説明している。

  • 計画が失敗する理由
  • 目的・目標を扱うポイント
  • 計画立案のポイント
  • 計画実行のポイント
  • プロジェクト・マネージャに求められること

と、個々のポイントに従って論を進める構成となっているため、すんなりと頭に入る。

「計画力」を強くする―あなたの計画はなぜ挫折するか (ブルーバックス)

「計画力」を強くする―あなたの計画はなぜ挫折するか (ブルーバックス)

恥ずかしながら、本書にはガツンとやられた。冒頭の「計画が失敗する理由」から、自分の行動のあらゆる部分を反省させられた。その中でも最も頷かされたのは

日本人の口癖「とりあえず」

という一言。確かに自分自身、「やっておいて損はないと思うので、手をつけられるトコから進めておこう」的発想で動くことが多い。この結果として、本質的な問題が置き去りとなってしまい、部分で勝っても全体で負けるという事態に繋がる。加藤氏に言わせれば、これこそが「日本的計画立案法」の問題点なのだとか。

他にも、

  • 複数の計画を立案することの重要性(そして「それらを判断し、判断した結果に責任を持つ」リーダーの重要性)
  • お互いがやろうとしていること、やらなければならないことを、共に理解し合える場を作る
  • トヨタ生産方式を表面的に取り入れても成功しない
  • 手慣れた段取りや手順も、常に新たな工夫や試みを忘れてはいけない

などが気になったフレーズ。

「お互いがやろうとしていること、やらなければならないことを、共に理解し合える場を作る」としては、例えば我々の業界では「朝会」がすぐに思い浮かぶ。しかし朝会もしばらく続けてやってくるとダレてきてしまい、いつの間にか「ただ単に『順番に今日やる予定のことを言うだけ』の儀式」になってしまいがち。こうなってくると、せっかくの朝会というプラクティスもその効果を発揮せず、朝の貴重な 15 分を浪費するだけの作業負荷に成り下がってしまう。

このようなときに新たな工夫や試みが導入出来るかどうか、また本来の目的を再確認し、朝会に再び命を吹き込めるかどうか…こういったことを考えるチームでなければ、仏作って魂入れずのアジャイルごっこに成り下がっちゃうよなぁ…などとしみじみ思った。